彼はここ最近ちょっと冷たかった。
恋愛話になるのが嫌で、家族とも友達とも会社の人ともどこか距離を置いてしまっている僕にとって、彼からも温かさを得られないのは本当に辛かった。
ある日、ベッドの上で、彼が心情を打ち明けてくれた。彼が僕にやや冷たい態度で接していたのは、僕に温かみを以て接すると、僕の両親の顔が浮かんでしまうかららしい。僕の両親が僕に結婚を望んでいること、僕達家族の仲がいいこと、でも結婚の話が嫌で僕が精神的な距離をやや空けていること、それらを全て知っている彼は、僕と付き合っていることで責任感と申し訳なさを感じていると言う。
彼はすごく優しい。僕のことを考えているからこそ、その温かさによって冷たく接したのだ。そんな彼の温かさに触れ、彼と一緒にいたい気持ちが強くなった。
しかし、彼と一緒にいることを決意することは、僕がこれからも家族や友達や同僚、同期を含むあらゆる人たちと精神的な距離感を保ちながら生きていくことを意味している。究極の選択とはこのことだなと思った。
恋人ができて結婚すれば家族との距離も縮まり、友人や誰にでも臆することなく自分の恋人について話題にできる異性愛者が心底羨ましかった。